10月24日、米国の投資会社 Apollo のチーフエコノミスト、Torsten Slok 氏が「No Signs of AI Payoff Outside the Tech Sector(テック以外ではAIの成果が見えない)」という短いレポートを出しました。X でも「やっぱりAIって儲からないの?」という文脈でかなり拡散されています。

AIを業務に組み込むシステムを作っている側としては、正直ドキッとするタイトルです。ただ、中身を読むと「AIは役に立たない」という話ではなくて、「使い方が売上や利益につながる形になっていない」という話だと自分は受け取りました。

今回は、このレポートが何を言っているのかを確認したうえで、うちのような小さい会社やお店がAIをどこに使えば「コスト」で終わらないのかを考えてみます。

01|レポートは何を言っているのか

レポートの主張はシンプルです。

  • 売上を従業員数で割った「1人あたり売上」は、Apple や Microsoft などの大手テック7社(いわゆる Magnificent 7)では上がっているが、それ以外のS&P 500企業(S&P 493)では横ばい
  • 利益率も同じで、大手テック7社は上がっているが、それ以外は横ばい
  • 国全体の生産性の伸びにも、AIで加速した形跡はまだ見えない

そのうえで、「利益に効いていないので、一般の企業はAIへの支出(トークン代)を成長のための投資ではなく、利益を削るコストとして見始めている」と書いています。

同じ週に Slok 氏は別のレポートでも「計算資源を作るコストが、使う側が得られる価値を上回っている」と指摘していて、Fortune がこの一連の発言をまとめて記事にしています。

02|数字の読み方には注意がいる

ここは冷静に読んだほうがいいところです。

このレポートのグラフは、大きな企業グループ全体の傾向を比べたものです。「AIを使ったから売上が伸びなかった」と因果を示したものではありません。実際、この話題を伝えた記事の中にも「個々の企業でAIの効果を切り分けたものではない」と注記しているものがありました。

また、Apollo の別のレポートでも、電気やITも国全体の数字に効果が出るまで10年以上かかった、と書かれています。なので「まだ数字に出ていない」と「効果がない」は別の話です。

とはいえ、自分はこのレポートを「AI懐疑論」として読み流すのはもったいないと思っています。むしろ大事なのは、次の一文です。

mainstream corporate America does not need the latest model and is unwilling to pay for it.
(一般の企業は最新のモデルを必要としていないし、そこにお金を払う気もない)

これは、現場でお店や中小企業の方と話していても感じることです。

03|「AIを入れた」だけでは売上は変わらない

AIの導入で多いのは、こんなパターンだと思います。

  • 社内でチャットAIの契約をして、各自が好きに使う
  • 文章作成や要約が少し速くなる
  • でも、その浮いた時間が何に使われたかは誰も見ていない

これだと、AIは「便利な文房具」です。便利なのは間違いないのですが、売上や利益の数字には出てきません。そして毎月の利用料だけは確実に出ていくので、経営の目線では「コスト」に見えてしまう。Apollo のレポートが言っている状態を、小さな規模で再現しているようなものです。

レポートの最後に「ビジネスでの知性は、ほとんどが判断だ。そして判断は文脈に左右される」という一節があります。AIが賢くなっても、「どの仕事を、どの数字を動かすためにやらせるか」を決めるのは人間側の仕事だ、ということだと思います。

04|売上に近いところから使う

じゃあどこに使うか。自分が中小企業やお店に提案するなら、お客様と売上に直接つながる、地味な繰り返し作業から始めます。

たとえば美容室やサロンなら、

  • 来店後のお礼や次回の予約のご案内を、お客様ごとに送り分ける
  • しばらく来ていないお客様に、タイミングを見てご連絡する
  • 問い合わせへの一次返信を早くして、予約の取りこぼしを減らす

こういう仕事は「やったほうがいいのは分かっているけど、忙しくて手が回らない」ものの代表です。そして、やったかどうかが再来店率や予約数という数字にそのまま出る。ここにAIや仕組みを入れると、「時間が浮いた気がする」ではなく「数字がどう動いたか」で効果を判断できます。

逆に、効果が数字で見えない使い方から始めると、半年後に「で、AIって効果あったんだっけ?」となりがちです。

05|「最新で一番賢いAI」にこだわらない

もう一つは、コストの考え方です。

レポートにもあった通り、一般の企業は最新モデルを必要としていない。これは現場の感覚とも合っています。来店のお礼文の下書きや、問い合わせの分類くらいなら、一番高いモデルでなくても十分こなせる場面が多いです(以前の記事「一番賢いAIは、もう毎回いらない」でも書きました)。

なので、始めるときはこの順番がいいと思っています。

  1. 動かしたい数字を1つ決める(再来店率、問い合わせからの予約率、など)
  2. その数字につながる繰り返し作業を1つ選ぶ
  3. AIの費用は「その数字が動いたらペイするか」で決める
  4. 3か月くらいで、数字が動いたかを見て続けるか決める

AIの利用料を「なんとなくの経費」ではなく、「この数字を動かすための費用」として持っておく。それだけで、AIがコストセンターになるか、売上の道具になるかはだいぶ変わります。

「AIは儲からない」というニュースは、AIを使うのをやめる理由ではなく、使い方を見直すきっかけだと思います。大企業でまだ数字が出ていないなら、小回りのきく小さい会社のほうが、売上に近いところから先に成果を出せる余地はむしろ大きいはずです。